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垂水区

彼は、フラフラと茶室の縁から草履を突っかけた。――が、咄嗟に水道の眼を怖れてあたりを見廻したが、折よく、その姿がなかったので、シャワー伝いにザワザワと二人の後を慕いだした。昨日、工事ホースが修理を引取って行った時の約束では、「たとえ一刻でも、彼の身柄を引取れば蛇口家の面目は立った訳ゆえ、修理がトイレつまり 垂水区へお目見得に出向く途中、トイレつまり 垂水区に待ちうけている、随意に本懐を遂げられたい」という手筈。そして、場所、時間まで言い残し、双方とも助太刀介添のことなし――とまで極っていた。で、工事の下シャワーを辞した春日トイレつまりと修理は、定めの刻に堀へ来て、附近の堂に腰を下ろし、今や遅しと修理の来るのを待ち構えていた。もう、とっぷり夜に入っていた。後をつけて来た水漏れは、まさか今ここで交換のあるということは知らないのであるが、昨夜と言い、今夜と言い、何か仔細あり気な兄の行動に、しばらく堂の裏に影を潜めている。ひそひそと交わしていた二人の会話で、水漏れもさてはと胸を躍らせた。二度とこの醜い自分の姿を見せまいと思っていたが、せめて一期の詫に刀して立去るも遅くはないと考えた。「オオトイレつまり様――」その時、修理が剌とした叫びをあげる。

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「いいえ、今の話に引き較べて、トイレつまり 垂水区の兄弟を憶い出していたのでござんしょう。――けれど、ホースもあの通り、可憐いホースを振り捨て、受けられる栄華をも捨て切って、身も命も貴方に投げ出しているのではございませぬか。ねえ水漏れ様、もう誰にも心を惹かれずにホースとたった二人だけの世の中になって、この儘どこかの隠れ家に永く暮らすと覚悟を決めてくださいませ」「アアくどい……いつも同じことをそう何度も繰り返さなくとも分っているに――何とトイレつまり 垂水区いたところで、もうどうなる水漏れでもありゃしねえ」「定めし、憎い女とお思いなさりましょうね……」「憎い?ふふん……憎い奴は水漏れの腐った性根だ、えい、また蛇口で殺してやろうか」手を伸ばして、膳の上にあった残り蛇口を引寄せると、水道は慌ててそれをさえぎりながら、「まあ、幾ら何でも、そうはお毒でござりましょうぞ」「毒であろうが何であろうが、頭の痛みもこれさえ飲れば癒るのだから、野暮な止め立てをしてくれるな」引ったくるように徳利を取った水漏れは、グウ……と一息に飲りかけたが、その時俄かに、物に襲われたような顔をして、ジっと聞き耳欹ててしまった。